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柔道整復師養成学校カリキュラム変更と介護保険の対応を考えてリハビリテーション学を復習

Ⅰ.脳血管障害


脳血管(疾患)障害の病態

 脳血管障害とは虚血又は出血を起因とする循環障害で、一過性又は継続的に脳の局所的機能が障害された状態の総称。
 ※脳血管障害、脳血管疾患、脳卒中とも呼ばれる。

 昭和26年には脳血管障害は結核にかわり日本人の死因第1位になりました。しかし、昭和56年には第2位、昭和60年には第3位と順位を下げていますが、脳血管障害の患者総数は133.9万人で死因第2位の心疾患の80.8万人を大きく上回っています。

 また、平成20年の入院患者の在院日数を見ると105日と平成8年の119日から短縮傾向にあります。脳血管障害は医療技術の進歩により延命が可能になってきましたが、その後の日常生活は後遺症を抱え長期の治療を必要とする人が少なくありません。

 現在の医療体制においては、急性期病院、回復期病院、慢性期病院という様に病院の役割が分かれています。

 急性期病院は急性疾患や慢性疾患の急性増悪など、緊急・重篤な(生命に関わる)状態の患者の医療を24時間体制で提供する病院で、ここでのリハビリテーションは拘縮予防など、“現状より悪くしない”事を目的とします。ここでの入院は数週間程度と考えられ重篤な状態を脱したら早急に回復期病院へ転院します。

 回復期病院では、専門的なリハビリテーションが行われ日常生活に必要な動作の獲得を目指します。ここでは3~6ヶ月程度をめどに、在宅に戻るか、慢性期病院や介護福祉施設・老人保健施設などの施設に移ることになります。

 慢性期病院とは病状の安定している患者に長期間の入院治療を提供する病院のことです。

 入院中のリハビリテーションにおいて効果を最大限に高めることは勿論ですが、在宅、地域においても様々な職種が連携し介入することが重要になります。

脳血管障害は頭蓋内出血と脳梗塞に分けられます。
脳血管障害
頭蓋内出血脳梗塞
硬膜外血腫硬膜下血腫脳内出血くも膜下出血脳血栓症脳塞栓症
頭部外傷脳卒中


頭蓋内出血
硬膜外血腫硬膜下血腫脳内出血くも膜下出血

○硬膜外血腫とは
 頭蓋骨と、脳を覆う最も外側の層の間に血液が蓄積したもの。
通常は頭部外傷によって起こる

○硬膜下血腫とは
 脳の表面に血液が蓄積したもの。硬膜静脈洞へ繋がる架橋静脈が損傷しくも膜との間に出血。
脳は架橋静脈によって頭蓋骨内に吊り下げられた状態であるため、回転加速度損傷のように頭を打っていなくても揺さぶられることでも発生する

○脳内出血とは
 脳皮質の血管から出血し、脳組織が障害されるもの。

○くも膜下出血とは
 くも膜下腔への出血によって意識障害、神経障害、頭痛などの症候を来すもの。大部分は静脈瘤の破裂や脳動静脈奇形によって出血



脳梗塞は脳血流の遮断ないし減少によって脳組織が不可逆的に変化したもので、
栓因によって脳血栓症と脳塞栓症に分けられる。

脳梗塞
脳血栓症
脳塞栓症


 心臓など脳以外の部分で生じた血栓が血流にのって脳へ移動し脳の血管を塞ぐことによって起こる。
 心臓で生じた血栓が移動した心原性脳梗塞や頸動脈で発生した血栓、細菌や脂肪の塊、癌組織の一部などの栓因がある。
アテローム性脳梗塞

 主幹動脈(脳の太い動脈)の粥状硬化による血管内腔の狭窄により生じる。
 壊死する範囲は小さく一過性脳虚血性発作を起こすことが多い。
ラクナ梗塞

 脳の太い動脈から枝分かれした細い血管(穿通枝)が詰まり発症。
 日本人では最も多い脳梗塞。
 ラクナ梗塞が多発したものが多発性脳梗塞と呼ばれ、脳血管性認知症や脳血管性パーキンソン病の原因となる場合がある。


 脳血管障害の機能障害
 脳血管障害の機能障害は、病巣の部位や大きさに応じており、また、時間の経過に伴って変動もあります。
 特に急性期における症状の変動は著しく予後にも大きな影響を及ぼす因子になり易い為、十分に注意する必要がある。

 脳血管障害の機能障害には、
 ・運動麻痺
 ・意識注意障害
 ・高次脳機能障害
 ・構音障害
 ・感覚障害
 ・摂食嚥下障害
 ・疼痛
 ・片手症候群
 ・神経因性膀胱などがある。

 また、二次的な機能障害として
 ・関節拘縮、変形
 ・易疲労性
 ・沈下性肺炎などの廃用症候群も重要であり、早期からの予防が必要である。

 運動麻痺
 一般的に、発症早期では弛緩性麻痺を呈し、時間の経過とともに次第に筋緊張や深部腱反射が亢進し痙性麻痺に移行する。
 痙性麻痺の筋緊張は痙縮と呼ばれ他動的に動かすと、初めは強い抵抗を呈するが徐々に抵抗が弱くなる為、ジャックナイフ現象とよばれます。(折り畳みナイフの動きに似ている為)

 大脳基底核障害では、他動的に動かすとカタカタと歯車が回るような抵抗感があり歯車様現象と呼ばれます。また、鉛の管を曲げる時のように一定の抵抗で曲がって行く鉛管現象が見られます。これは固縮と言ってパーキンソン患者にも見られる症状の一つです。

 随意運動時には、一つの筋を収縮させると幾つかの筋が同時に収縮していまう行動運動パターンや連合反応、緊張性頸反射、緊張性迷路反射など原始的反射が出現します。
ブルンストロームステージ
ステージ状態詳細
完全麻痺
(弛緩性麻痺)
発症初期の段階で筋肉がだらんと緩んだ状態。動かす事が出来ない。
連合反応出現あくぎやくしゃみをした拍子に腕や指が曲がったり、足が伸びるなど連合反応は誘発されます。健側に力を入れると患側の筋も収縮するなど。
共同運動パターン出現患側の筋を動かす事が出来るようになるが、個々の筋を別々に動かすことが出来ず、付随する筋まで一緒に動いてしまう。
そのため、一定のパターン以外の運動が出来ない。
屈筋運動パターン
伸筋運動パターン
分離運動の出現個々の関節が少しずつ分離しばらばらに動かすことが出来るようになり始める。
分離運動の進行共同運動や痙性の出現が弱まり、より多くの分離運動ができるようになる。
正常に近づく行動運動や痙性の影響がほぼ無くなり、運動の協調性や速度も正常に近づきます。
ぎこちなさは残るが、個々の関節も自由に動かすことが出来る。

 上の表のような過程をたどり、徐々に回復していきますが、全てのケースで運離運動が回復するわけではなく、損傷の程度によって共同運動の出現、弛緩性麻痺のまま回復が止まる事もあります。

 麻痺の回復は一般的に発症から1ヶ月の間に起こり、3ヶ月を過ぎると停滞すると言われていますが、近年、新しい治療法の開発により3ヶ月以降でも著しい回復が見られるとの報告があり注目を集めています。

 意識注意障害
 注意意識障害は脳血管障害の重症度や予後に大きく影響を与える因子の一つです。
 意識レベルが低下していると木のや能力障害の評価が出来ない上、脳動的なリハビリテーションを行うことができません。
 評価尺度としてGCS(グラスコーマスケール)、JCS(ジャパンコーマスケール)や軽度な意識障害や認知症、高次脳機能障害を一括して評価するMMST(ミニメンタルステートテスト)などがあります。
 また、急性期に見られる軽度の意識障害例では閉眼やあくびの有無、日内変動などから意識障害を推察する必要があります。

GCS:グラスコーマスケール
E:eye opening(開眼)
4点自発的に開眼
3点呼びかけにより開眼
2点痛み刺激により開眼
1点痛み刺激でも開眼しない
V:best verbal response(最良言語機能)
5点見当識あり
4点混乱した会話
3点不適当な発語
2点理解不明の音声
1点発語なし
V:best motor response(最良運動反応)
6点命令に応じる
5点疼痛部位を確認する
4点痛み刺激から逃避する
3点痛み刺激に対して屈曲運動を示す
2点痛み刺激に対して伸展運動を示す
1点痛み刺激に対して反応なし
 意識レベルを「開眼」4段階、「発語」5段階、「運動」6段階に分け、それぞれの最良応答で評価し、合計点で重症度・緊急度を判断します。
 ※点数が低いほど重症度・緊急度が高い

 開眼・発語・運動をそれぞれ「最良」で評価して点数をつけ、
その合計点(最軽症は15点、最重症は3点)を付記します。

 たとえば、目を閉じていても、軽い呼びかけで開眼するのであれば開眼は「4点」と評価して構いません。

 また、言語と運動は数回繰り返し、最も良い反応で評価します。  GCS8点以下は緊急度が高いと判断し、呼吸や循環に注意しながら早急に原因を検査する必要があります。

 また、短時間で合計点が2点以上低下した場合も病態が急速に悪化していると判断しましょう。

 合計点が13点以下であった場合は頭部CT検査などで頭蓋内病変の有無を調べる必要があります。


JCS:ジャパンコーマスケール
Ⅰ:刺激しないでも覚醒している状態(Ⅰ桁で表現)
意識明瞭
Ⅰ-1だいたい明瞭であるが、今一つはっきりしない
Ⅰ-2見当識障害がある
Ⅰ-3自分の名前、生年月日が言えない
Ⅱ:刺激で覚醒するが、刺激をやめると眠り込む状態(Ⅱ桁で表現)
Ⅱ-10普通の呼びかけで容易に開眼する
Ⅱ-20大きな声または体を揺さぶる事により開眼する
Ⅱ-30痛み刺激を与えつつ呼びかけるを繰り返すことにより開眼する
Ⅲ:刺激しても覚醒しない状態(Ⅲ桁で表現)
Ⅲ-100痛みに対し、払いのける動作をする
Ⅲ-200痛み刺激に対し、少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする
Ⅲ-300痛み刺激に反応しない
 かつてⅢ-3度方式あるいは3-3-9度方式とされていたように、JCSでは意識レベルを大きく「Ⅰ:刺激しないでも覚醒している」「Ⅱ:刺激で覚醒するが、刺激をやめると眠り込む」「Ⅲ:刺激しても覚醒しない」の3つに分け、それぞれに対してさらに細かく3段階の状態が決められています。

 一般的には「Ⅰ-3」や「Ⅱ-20」あるいは「Ⅲ-300」と記載されていることが多いですが、正しくは「JCS 1」、「JCS 20」、「JCS 300」と記載します。

 なお、意識が清明な場合は「0」と表現し(JCS 0)、不穏状態であれば「R:restlessness」、失禁があれば「I:incontinence」(JCS 20-RI、JCS 200-I)、無動性無言症(akinetic mutism)や失外套症候群(apallic state)があれば「A」を付記します(JCS20A、JCS200RA)。


MMST:ミニメンタルステートテスト


 高次脳機能障害とは
 言語、認知などの大脳皮質が関与した機能が障害された総称で、失語症や半側空間無視が代表的な症状です。

 失語症は左大脳半球障害によって出現しやすく、流暢性復唱力、言語理解力などで分類します。

 ブローカー失語
 自発語は少なく失文法で非流暢であり、復唱、呼称、音読、書字が障害されますが、言語理解、読字能力は比較的保たれているのが特徴。

ウェルニッケ失語
 言語理解が悪く、単純な口頭指示に応えられず、復唱、読字も障害されます。自発語は流暢で多弁であり、メロディーも抑揚も保たれています。

ブローカー失語ウェルニッケ失語
自発語少なく非流暢多弁・流暢
復唱障害障害
呼称障害
音読障害
書字障害
言語理解比較的保たれている障害
読字能力比較的保たれている障害
 失語そのものはADL獲得の阻害因子とはならないが、抑うつや感情失禁などの心理状態や職場復帰などの社会的不利に影響を及ぶす事があります。

 半側空間無視とは
 大脳半球病巣の反対側の刺激や対象を無視する症状で空間失認の一つに分類されます。
 半側空間無視は頭部や視線の動きを自由にした状態でも障害された大脳の反対側(左半側空間無視が圧倒的に多い)の空間に注意が向かない症状で、一点を凝視した状態で右又は左の視覚刺激を検出できなくなる同名半盲と区別しなければならない。

 半側空間無視の評価法として線分二等分試験、線分末梢試験、模写試験などがある。

 ・線分二等分試験
 紙に20cm程度の線を引き、対象者の正面に置き、線の真中に印を付けてもらう。左半側空間無視があると真中より右によって印をつける。
 正常か異常かの境界は線分長の半分の1割のズレがあるかないかで判断する。

 ・線分末梢試験
 紙に40本ほどの線をランダムに書き、対象者の前に置き、線分の全てに印をつけてもらう。左半側空間無視があると左側にある線分に印がつけられず残ってしまう。
 一本でものこると異常であり、日常生活の自立度に重要な指標となる。

 ・模写試験
 花びらのある花の絵や家の絵を模写して貰う。左半側空間無視があると左側を省略した恵を描く。

 構音障害
 脳血管障害で多く認められる構音障害は、麻痺性構音障害です。
 橋、延髄の下位運動ニューロンの障害により構音に関する筋群の麻痺を来したもので、障害される脳神経によって特徴ある構音障害を来します。

 感覚障害
 脳血管障害に伴う感覚障害は、その種類、程度は様々で多くは感覚の低下、脱失として現れますが、時に異常感覚として訴えられることがあります。

 嚥下障害
 脳血管障害の嚥下障害は、大脳一側性病変例は大部分が一過性であるのに対し、脳幹部病変では慢性期まで出現しやすい。

 疼痛
 脳血管障害の疼痛は肩関節の発症頻度が高く、多くは肩関節周囲炎で、また、片手症候群も発症2~3ヶ月後に起こり易い。
 片手症候群は上肢に強い痛みと腫脹、知覚異常、血管運動異常を伴う病態であり、病因は不明です。
 リハビリテーションの対応は温熱療法と共に運動療法にて拘縮除去と関節可動域改善を目的としますが、疼痛を増悪させるほどの訓練は避けなければなりません。

 神経因性膀胱とは
   神経因性膀胱とは、排尿に関する交感神経、副交感神経、体制感覚のいずれかの部位が障害され生じる排尿障害です。

 能力低下について
   能力は日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)として捉えることが出来ます。
 ※手段的日常生活動作(IADL)は生活関連動作(activities parallel to daily living:APDL)と同意語として使われています。
 基本的動作や歩行、麻痺側上肢能力などの能力低下は退院後の介護負担に大きな影響を及ぼします。

 基本的動作は、寝返り、起き上り、立ち上り、立位、などを含みます。また、介入では能力向上を獲得することも重要となりますが、特に重症例ではベッドの柔らかさ、高さ、手すりの位置等の環境因子に依存することが多く、配慮が必要です。

 歩行は屋内が5m、屋外が50mを歩けるかどうかが一つの基準となります。
 また、10mを約10秒程度で歩けるかどうかが屋外の実用歩行になり得るかどうかの基準になります。

 脳血管障害の多くの場合、装具や杖などの補助具を活用しなければいけなくなる為、適切な補助具の選定が重要となります。

 麻痺側の上肢能力は廃用、補助手、実用手として判断します。発症後1ヶ月迄の間に手指に動きが認められない場合は実用手としての活用は難しいと考えられます。

 リハビリテーション実施上、ADLの帰結予測は重要となります。到達ADLを誤ると時間的、経済的にもを大きな問題を生じさせてしまうため、リハビリテーション開始段階から医学的情報を始めとして機能障害、能力障害に関する情報に基づいて適切な帰結予測を行いリハビリテーション計画を作成しなければなりません。

 初発大脳病変による脳血管障害の患者の機能帰結は良好であり、リハビリテーションを受けた患者の7割はADLがほぼ自立レベルに到達すると報告されています。


脳血管障害のリハビリテーション

 脳血管障害の評価法は"ブルンストローム・ステージ"・"SIAS(サイアス)"等が代表的です。

 ブルンストローム・ステージ
 概要は前述の表で示していますが、上肢(肩・肘)、手指、体幹と下肢に分けて評価します。

上肢(肩・肘)のブルンストローム回復ステージ
随意運動なし(弛緩期)
共同運動またはその要素の最初の出現、痙縮の発現期
共同運動またはその要素を随意的に起こすことが出来る。痙縮は強くなり、最強となる
痙縮が現象し始め、共同運動が分離し始める。
①手を腰の後ろに動かせる
②上肢を前方水平位に挙げることができる
③肘90°屈曲位で前腕の回内・回外ができる
痙縮がさらに減少し、共同運動の分離が進み関節の独立した運動が可能になってくる。
①上肢を横水平位まで挙げることができる(肘伸展、前腕回内位で)
②上肢を前方挙上して頭上まで挙げることができる(肘伸展位で)
③肘伸展位での前腕の回内・回外ができる
分離運動が自由に出来るようになり、協調運動が殆ど正常にできる。痙縮は殆ど消失する


手指のブルンストローム回復ステージ
弛緩性
指屈曲が随意的にわずかに可能か、または殆ど不可能な状態
指の集団屈曲が可能、鉤型握りをするが離すことはできない。指伸展は随意的にはできないが、反射による伸展は可能なこともある
横つまみが可能で、拇指の動きにより離すことも可能。指伸展は随意的にわずかに可能
対向つまみができる。円筒にぎり、球にぎりなどが可能。指の集団伸展が可能
すべてのつまみ方が可能になり、上手にできる。推移的な指伸展が全可動域にわたって可能。指の分離運動も可能である。しかし、健側より多少拙劣


体幹と下肢のブルンストローム回復ステージ
随意運動なし(弛緩期)
下肢の随意運動がわずかに可能
座位や立位で股・膝・足関節の屈曲が可能
座位で足を床上に滑らせながら、膝屈曲90°以上可能
座位で踵を床につけたまま、足関節の背屈が可能
立位で股関節を伸展したまま、膝関節の屈曲が可能
立位で患側足部を少し前方に出し、膝関節を伸展したまま、足関節の背屈が可能
立位で股関節の外転が、骨盤挙上による外転角度以上に可能。
座位で内側・外側のハムストリングスの交互収縮により、下腿の内旋・外旋が可能(足関節の内返し・外返しを伴う)



 サイアス:SIAS(脳卒中機能障害評価法)
 Stroke Inpairment Assesment Set(ストローク・インペアメント・アセスメント・セット)の頭文字をとった略語で、運動機能に限らず、感覚障害、関節可動域、高次脳機能障害など脳血管障害の機能障害を多面的に評価するものです。

 サイアスは
 運動機能    :5項目
 筋と腱反射   :4項目
 感覚機能    :4項目
 関節可動域   :2項目
 疼痛       :1項目
 体幹機能    :2項目
 高次脳機能障害:2項目
 健側機能    :2項目
 の9種類、22項目で構成され各項目3点満点または5点満点で評価します。


運動機能

上肢近位(knee-mouth test)
 座位において患肢の手部を対側膝(大腿)上より挙上し、手部を口まで運ぶ。

 この際、肩は90°まで外転させる。そして膝上まで戻す。

 これを3回繰り返す。肩、肘関節に拘縮が存在する場合は可動域内での
 運動をもって課題可能と判断する。
 0:全く動かない
 1:肩の僅かな動きがあるが手部が乳頭に届かない
 2:肩肘の行動運動があるが手部が口に届かない
 3:課題可能。中程度のあるいは著明なぎこちなさあり
 4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
 5:健側と変わらず、正常
上肢遠位(finger-function test)
 手指の分離運動を、拇指~小指の順に屈曲、小指~拇指の順に伸展させる
 0:全く動かない
 1:1A:僅かな動きがある。または集団屈曲可能
   1B:集団伸展が可能
   1C:分離運動が一部可能
 2:全指の分離運動が可能であるが屈曲伸展が不十分である
 3:課題可能。(全指の分離運動が十分な屈曲伸展を伴って可能)
   中程度のあるいは著明なぎこちなさあり
 4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
 5:健側と変わらず、正常
下肢筋位(股)(hip-flexion test)
 座位にて股関節を90°より最大屈曲させる。

 3回行う

 必要ならば座位保持のための介助をして構わない。
 0:全く動かない
 1:大腿に僅かな動きがあるが足部は床から離れない
 2:股関節の屈曲運動あり、足部は床より離れるが十分ではない。
 3:課題可能。中程度のあるいは著明なぎこちなさあり
 4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
 5:健側と変わらず、正常
上肢近位(膝)(knee-extension test)
 座位にて膝関節を90°屈曲位から十分伸展(-10°程度まで)させる。

 3回行う

 必要ならば座位保持のための介助をして[構わない。
 0:全く動かない
 1:下腿に僅かな動きがあるが足部は床から離れない
 2:膝関節の伸展運動あり、足部は床より離れるが、十分ではない
 3:課題可能。中程度のあるいは著明なぎこちなさあり
 4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
 5:健側と変わらず、正常
下肢遠位(foot-pat test)
 座位または臥位、座位は介助しても可。。

 踵部を床につけたまま、足部の背屈運動を協調しながら背屈・底屈を3回繰り返し、
 その後なるべく早く背屈を繰り返す。
 0:全く動かない
 1:僅かな背屈運動があるが前足部は床から離れない
 2:背屈運動あり、足部は床より離れるが十分ではない
 3:課題可能。中程度のあるいは著明なぎこちなさあり
 4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
 5:健側と変わらず、正常

筋緊張・腱反射

上肢筋緊張 U/E muscle tone
 肘関節を他動的に伸展屈曲させ、筋緊張の状態を評価する。
 0:全上肢の筋緊張が著明に亢進している。
 1:1A:上肢の筋緊張が中程度(はっきりと)亢進している
   1B:他動的筋緊張の低下。
 2:上肢の筋緊張が軽度(わずかに)亢進している。
 3:正常、健側と対称的
下肢筋緊張 L/E muscle tone
 膝関節を他動的に伸展屈曲させ、筋緊張の状態を評価する。
 0:全下肢の筋緊張が著明に亢進している。
 1:1A:下肢の筋緊張が中程度(はっきりと)亢進している
   1B:他動的筋緊張の低下。
 2:下肢の筋緊張が軽度(わずかに)亢進している。
 3:正常、健側と対称的
上肢腱反射 U/E DTR(biceps or triceps)
・上腕二頭筋反射(biceps reflex)反射中枢:C5・C6、筋皮神経が反射弓を形成
 上腕を軽く外転し、肘を軽く屈曲させ、上腕二頭筋の腱を検者の第1指で押さえ、押さえた指をハンマーで叩くと、反射より肘関節が屈曲。

・上腕三頭筋反射(triceps reflex)反射中枢:C6~C8
 筋を軽く伸展させるために前腕を軽くつかんで肘を軽度屈曲位にし、肘頭の上の三頭筋腱を直接叩くと、肘が伸展します。
 0:bicepsあるいはtriceps反射が著明に亢進している。
   あるいは容易にclonus"間代"(肘、手関節)が誘発される。
 1:1A:bicepsあるいはtriceps反射が中程度(はっきりと)亢進している。
   1B:bicepsあるいはtriceps反射がほぼ消失している。。
 2:bicepsあるいはtriceps反射が軽度(わずかに)亢進している。
 3:bicepsあるいはtriceps反射ともに正常、健側と対称的
下肢腱反射 L/E DTR(PTR or ATR)
・膝蓋腱反射(PTR:patellar tendon reflex)反射中枢:L2~L4
 仰臥位で両膝を120~150°屈曲させ、膝蓋骨下の膝蓋腱を叩きます。このとき大腿四頭筋に検者の左手を軽く当てておくと、その収縮が感じられます。

・アキレス腱反射(achilles tendon reflex)反射中枢:L5~S2
 仰臥位で下肢を軽く外転させ、膝関節を軽く曲げ、足関節を背屈した肢位でアキレス腱を軽く叩くと、足関節が底屈します。検足をもう一方の足の上に軽く乗せるとハンマーの操作がしやすくなります。
 0:PTRあるいはATR反射が著明に亢進している。
   あるいは容易にclonus"間代"(膝、足関節)が誘発される。
 1:1A:PTRあるいはATR反射が中程度(はっきりと)亢進している。
   unsustained clonus(偽性間代)を認める。
   1B:PTRあるいはATR反射がほぼ消失している。。
 2:PTRあるいはATR反射が軽度(わずかに)亢進している。
 3:PTRあるいはATR反射ともに正常、健側と対称的

感覚

上肢触覚 U/E light touch(手掌)
 0:強い皮膚刺激もわからない。
 1:柔道あるいは中程度低下。
 2:軽度低下、或いは主観的低下、または異常感覚あり。
 3:正常。
下肢触覚 L/E light touch(足底)
 0:強い皮膚刺激もわからない。
 1:柔道あるいは中程度低下。
 2:軽度低下、或いは主観的低下、または異常感覚あり。
 3:正常。
上肢位置覚 U/E position(拇指 or 示指)
 指を他動的に運動させる。
 0:全可動域の動きもわからない。
 1:全可動域の運動なら方向がわかる。
 2:ROMの1割以上の動きなら方向がわかる。
 3:ROMの1割未満の動きでも方向が分かる。
下肢位置覚 L/E position(拇趾)
 趾を他動的に運動させる。
 0:全可動域の動きもわからない。
 1:全可動域の運動なら方向がわかる。
 2:ROMの5割以上の動きなら方向がわかる。
 3:ROMの5割未満の動きでも方向が分かる。

関節可動域、疼痛

上肢関節可動域 U/E ROM
 他動的に肩関節を外転させる。
 0:60°以下。
 1:90°以下。
 2:150°以下。
 3:150°以上。
下肢関節可動域 L/E ROM
 膝伸展位にて他動的に足関節を背屈させる。
 0:-10°以下。
 1:0°以下。
 2:10°以下。
 3:10°以上。
疼痛 pain
 脳卒中に由来する疼痛の評価を行う。既往としての整形外科的(腰痛など)、内科的(胆石んど)疼痛は含めない。また過度でない拘縮伸張時のみの痛みも含めない。
 0:睡眠を妨げる程の著しい疼痛。
 1:中程度の疼痛。
 2:加療を要しない程度の疼痛。
 3:疼痛の問題がない。

体幹機能

垂直性 Verticality test
 0:座位がとれない。
 1:静的座位にて側方性の姿勢異常があり、指摘・指示にても修正されず、介助を要する。
 2:静的座位にて側方性の姿勢異常(傾で15°以上)があるが、指示にてほぼ垂直位に修正・維持可能である。
 3:静的座位は正常。
腹筋 abdominal MMT
 車椅子または椅子に座り、臀部を前にずらし、体幹を45度後方へ傾け、背もたれによりかかる。大腿部が水平になるように検者が押さえ、体幹を垂直位まで起き上がらせる。検者が抵抗を加える場合には、胸骨上部を押さえること。
 0:垂直位まで起き上がれない。
 1:抵抗を加えなければ起き上がれる。
 2:軽い抵抗に抗して起き上がれる。
 3:強い抵抗に抗して起き上がれる。

高次脳機能

視空間認知 visuo-spatial deficit
 50cmのテープを眼前約50cmに提示し、中央を健側指で示させる。2回行い、中央よりのずれの大きい値を採用する。
 0:15cm以上。
 1:5cm以上。
 2:3cm以上。
 3:3cm未満。
言語 speech
 失語症に関して評価する。構音障害はこの項目には含めない。
 0:全失語症。全くコミュニケーションがとれない。
 1:1A:重度感覚性失語症(重度混合性失語症も含む)。
   1B:重度運動性失語症
 2:軽度失語症。
 3:失語症なし。

健側機能

握力 gripstrength
 座位で握力計の握り幅を5cmにして計測する。健側の具体的kg数を記載すること。参考として。
 0:握力0kg以下。
 1:握力10kg以下。
 2:握力10~20kg。
 3:握力25kg以上。
健側大腿四頭筋 quadriceps MMT
 座位における健側膝伸展筋力を評価する。
 0:重力に抗しない。
 1:中程度に筋力低下。
 2:わずかな筋力低下。
 3:正常。



 能力低下の評価にはバーサル・インデックス(Baethel Index)やFIM“Functional Independence Measureファンクショナル・インディペンデンス・メジャー”のような標準化されたものが多く用いられます。

 ○FIMは運動項目13項目、認知項目5項目をそれぞれ7段階で評価します(最高126点、最低18点)。まずは介助者が必要かどうかで判断します。介助者が必要ない場合は7点・6点のいずれかになります。

FIM採点基準
採点基準介助者介助
 7点:完全自立不要 なし
 6点:修正自立不要 介助の必要ないが、時間がかかる。補助具が必要、安全面への配慮が必要
 5点:見守り・準備必要 介助の必要はないが、見守り、指示、促しが必要
 4点:最少介助必要 介助が必要であるが、75%以上自分で行う
 3点:中程度介助必要 介助が必要であるが、50%以上75%未満自分で行う
 2点:最大介助必要 介助が必要、25%以上、50%未満自分で行う
 1点:全介助必要 介助が必要で、25%未満しか自分で行うことが出来ない
※しているADLを評価する


FIMの評価項目
1.セルフケア
食事 咀嚼、嚥下を含めた食事動作
整容 口腔ケア、整髪、手洗い、洗顔など
清拭 風呂、シャワーなどで頸から下(背中以外)を洗う
更衣(上半身) 腰より上の更衣および義肢装具の装備
更衣(下半身) 腰より下の更衣および義肢装具の装備
トイレ動作 衣服の着脱、排泄後の清潔、生理用具の使用
2.排泄コントロール
排尿管理 排尿管理、器具や薬剤の使用を含む
排便管理 排便管理、器具や薬剤の使用を含む
3.移乗
ベッド・椅子・車椅子 それぞれの間の移乗、起立動作を含む
トイレ 便器へ(から)の移乗
浴室・シャワー 浴槽、シャワー室へ(から)の移乗
4.移動
歩行・車椅子 屋内での移動、または車椅子での移動
階段 12~14段の階段昇降
5.コミュニケーション
理解 聴覚または視覚によるコミュニケーションの理解
表出 言語的または非言語的表現
6.社会的認知
社会的交流 他者、スタッフなどとの交流、社会的状況への順応
問題解決 日常生活上での問題解決、適切な判断力
記憶 日常生活上に必要な情報の記憶



 ・バーサル・インデックス:BI
 10項目の「できるADL」を評価する。基準に満たないものは0点、最高点は100点であるが、100点でも社会生活を営めることを意味するものではない。
 目安として、60点以上では介助量が少ない。40点以下では介助量が多い。20点以下では全介助レベル。
項目点数介助基準
1.食事10自立皿やテーブルから自力で食物をとって、食べることができる。自助具を用いてもよい。食事を妥当な時間内に終える
部分介助何らかの介助・見守りが必要(食物を切り刻む等)
2.椅子とベッド間の移乗15自立全ての動作が可能(車椅子を安全にベッドに近づける。ブレーキをかける。フットレストを持ち上げる。ベッドへ安全に移る。臥位になる。ベッドの縁に腰かける。車椅子の位置を変える。移乗の動作の逆)
10最小限の介助上記動作(1つ以上)最小限の介助または安全のための指示や見守りが必要
移乗の介助自力で臥位から起き上がって腰かけられるが、移乗に介助が必要
3.整容自立手と顔を洗う。整髪する。歯を磨く。髭をそ剃る。(道具は何でも良いが、引出しからの出納を含めて道具の操作・管理が介助なしにできる)。女性は軽傷も含む(ただし髪を編んだり、髪型を整えることは除く)。
4.トイレ動作10自立トイレの出入り(腰かけ、離れを含む)。ボタンやファスナーの直脱と汚れない為の準備。トイレットペパーの使用。手すりの使用は可。トイレの代わりに差し込み便器を使う場合には便器の清浄管理ができる。
部分介助バランス不安定、衣服操作、トイレットペパーの使用に介助が必要
5.入浴自立浴槽に入る。シャワーを使う。スポンジで洗う。このすべてがどんな方法でもよいが、他人の援助なしで可能。
6.移動15自立介助や見守りなしに45m以上歩ける。義肢・装具や杖・歩行器(車付きを除く)を使用しても良い。装具使用の場合には立位や座位でロック操作が可能なこと。装着と取り外しが可能なこと。
10部分介助上記事項について、わずかの介助や見守りがあれば45m以上歩ける。
車椅子使用歩くことは出来ないが、自力で車椅子の操作ができる。角を曲がる。方向転換。テーブル、ベッド、トイレ等への操作等、45m以上移動できる。患者が歩行可能な時は採点しない。
7.階段昇降10自立介助や見守りなしに安全に階段の昇降ができる。手すり、杖、クラッチの使用可。杖を持ったままの症候も可能。。
部分介助上記事項に介助や見守りが必要
8.更衣10自立通常着けている衣類、靴、装具の着脱(細かい着方までは必要としない:実用性があればよい)が行える。
部分介助上記事項について介助を要するが作業の半分以上は自分で行え、妥当な時間内に終了する。
9.排便自制10自立排便の自制が可能で失敗がない。脊髄損傷患者等の排便訓練後の座薬や浣腸の使用を含む。
部分介助座薬や浣腸の使用に介助を要したり、ときどき失敗する。
10.排尿自制10自立昼夜とも排尿自制が可能。咳図損傷患者の場合、集尿バッグ等の装着・清掃管理が自立している。。
部分介助ときどき失敗がある。トイレに行くことや尿器の準備が間に合わなかったり、集尿バッグの操作に介助が必要。



○脳血管障害への具体的な介入

 脳血管障害のリハビリテーションは、急性期・回復期・維持期に分けられます。

 急性期のリハビリテーションはベッドサイドから開始する場合が殆どです。十分なリスク管理の下、廃用症候群の予防、摂食嚥下障害の管理、セルフケアを獲得しながら座位の耐久性を高める訓練を行い早期離床を目指します。
 一般的には30分以上の座位耐久性が獲得されれば訓練室での本格的な訓練を開始することが出来ると考えられます。

 回復期では退院に向け、主に訓練室での訓練を中心に、脳動的な訓練を行うことで最大限の機能回復を目指します。
 回復期病院では、患者の状態に応じて、今後、自宅復帰が可能か?、慢性期病院に転院するか?、介護福祉施設・老人保健施設に入所するかなど、ソーシャルワーカーなども参加し退院時を含めた社会的調整が必要となります。

 維持期では、機能と能力改善に加え再発予防と新たな合併症の予防を目的として外来通院、デイケア、デイサービス、在宅でのリハビリテーションを行います。
 自宅での生活が維持できないと判断された場合には、慢性期病院に入院、介護保険施設、老人保健施設などへの入所も考慮されます。

 デイケア、デイサービス、訪問リハビリテーション等を利用するには介護保険制度を活用し、それに必要な調整はケアマネージャーが行います。

 このように、脳血管障害のリハビリテーションでは多くの他職種の連携が重要になります。


 理学療法では、基本動作や歩行の獲得を目指し、関節可動域訓練、促通法、筋力増強訓練、運動療法、歩行訓練などを行います。

 関節可動域訓練は早期の廃用予防や維持期の二次的合併症の予防として重要です。

 促通法はボバース法やPNF法、ブルンストローム法等があり、最近では川平法が良好な成績を報告し注目を集めています。

 歩行訓練は軽症例を除き殆どのケースで装具や杖を使用して行います。また、懸垂装置を併用したトレッドミル歩行訓練も効果的です。
 トレッドミル訓練開始直後では、通常の歩行より1.5倍程早く感じる為、行う際は低速度から徐々に速度を上げて行きます。

 作業療法ではADL向上を目的として運連を行います。早期では食事動作や整容といったセルフケアを、回復期では移乗、トイレ動作、入浴動作などの実践を想定した訓練を行います。

 これまでは、上肢の機能訓練に対しては、利き手交換、片手活動訓練が優先されてきましたが、川平法やCI療法による機能改善も期待されています。

 言語療法では、失語症に対する訓練、構音訓練、摂食嚥下訓練を行います。摂食嚥下訓練は食事を実践する病棟で看護師との協力が重要になります。

 看護師は早期から回復期にわたり大きな役割を担っています。具体的には全身状態の管理、心理的援助、家族指導。この他、理学療法・作業療法で獲得したADL「できるADL」を病棟で実践し「しているADL」へ繋げる要となります。


○運動療法と運動学習

 失われた動作や行為の再獲得を目的として運動療法を行います。その運動療法では運動学習の理論が基礎となります。

 麻痺などの機能障害で失われた動作や行為を可能にするということは、新しい運動課題を習う事と同じことを意味します。

 運動課題を習うことを運動学習(Moter Learning:モーターラーニング)と呼びます。

 運動学習は手続き記憶によってスキルを獲得する過程です。スキルというのは後天的に形成された運動単位で幾つかの運動から構成されています。
 適切なスキルには達成の正確性、身体的・精神的エネルギーの節約、使用時間の節約という3つの特徴があります。

 脳血管障害の患者の歩行練習で例えると、歩けない初期段階は麻痺した足の振り出しはバラツキ、身体的・精神的にも疲れやすく、そして歩行速度は遅く時間がかかります。
 この患者の歩行訓練が進み、スキルが適切化すると振り出しのバラツキは減ると共に、疲れにくくなりそして早く歩けるようになります。

 スキル獲得の要点は、転移性、動機づけ、行動変化、保持包容になります。練習の最終的目標となる課題を目標スキル・ターゲットスキルと言います。
 例えば、屋内歩行自立を目指す患者いおいて目標スキルは、退院後自宅で介助なしで歩行するということになります。
 練習の成果は目標スキルに現れる必要があり、この効果発現性を転移性と呼びます。

 運動課題は類似スキルの練習による基準スキルの向上を考慮し設定する必要があります。
 類似スキルを見極める際に重要なポイントはスキルの種類、運動プログラムの類似性にあります。

 スキルの分類は大きく3つに分かれます。

 一つ目は、解放・閉鎖スキル
 解放スキルとは環境が変化する状況下の課題、例えば卓球、テニスが当てはまり、閉鎖スキルは環境が安定している課題、ゴルフ、弓術が当てはまります。

 二つ目は、分離・連続・系列スキルです。
 分離スキルとは運動の開始と終了が明確な運動であるのに対し、連続スキルは明確でない運動になります。歩行は連続スキルに当てはまります。

 三つ目は、運動・認知スキルです。
 運動プログラムの類似性は一般運動プログラムで説明出来ます。
 一般運動プログラムとは、運動の速さ、大きさなどの表面的な変数が変動しても運動の相対的タイミングの様な普遍的変数が同一であれば同一の運動パターンとしてみなすことが出来ると言う考え方です。

 歩行に例えると速度が変化しても立脚と遊脚の比が6:4を維持し続けるということです。従って杖を使った3動作の歩行訓練と2動作の歩行訓練では運動プログラムが異なり3動作歩行の訓練を続けても2動作には転移しにくいといことになります。

 運動療法ではスキルの種類と運動プログラムの類似性をよく考え課題の設定を行わなければなりません。

 リハビリテーションは他の治療と異なり訓練に患者の能動性が強く要求されます。患者が主体的に訓練に参加しなければ訓練の効果は上がりません。

 動機づけとは、行動を始発させ方向付けし持続的に推進する心理過程で、機能を意味する心理的概念です。従って運動麻痺が軽症であっても意識障害を認める例では学習効果は低下することがあります。運動療法では如何に患者に動機づけするかが治療効果を左右するカギとなります。

 経験によって生じる行動の変化を行動変化と呼びます。行動変化をもたらす重要な変数は、量、難易度、フィードバックがあります。
 量は最も重要な変数であり一般的に臨床では圧倒的に不足しています。
 運動学習の過程では運動量、時間に対する成果に見た場合、学習曲線と呼ばれるS字曲線(シグモイドカーブ)になります。

シグモイドカーブ


 難易度もスキル獲得に重要な変数です。例えば患者にとって難易度が高過ぎると、長い期間、シグモイドカーブの左下の傾きの無い部分を経験することになり、課題が達成できないまま最後にはやる気を無くしてしまします。これを学習性無気力と呼びます。

 一方、難易度が低過ぎるとすぐに課題が達成され運動効果が停滞してしまい進歩を感じられないまま時間を過ごすことになります。

 従って、如何に課題を調整して効果がはっきりと分かる休息なカーブ部分で練習をするかが重要になります。

 要介護状態に陥る原因の第1位は脳血管障害、2位が加齢に伴う脆弱、3位が転倒による骨折ですが、脳血管障害の患者は運動麻痺、バランス障害、感覚障害、注意力や空間認識など転倒リスクを有することが多く、健常者に比べ簡単に転倒します。

 脳血管障害の機能障害が転倒リスクを高めることを考慮するとリハビリテーションの過程における活動性増大が一次的に転倒リスクを高めるとしても最終的な機能回復が転倒リスクを軽減することになります。
 そのため、高齢、重度麻痺、両・片麻痺、半側空間無視といったリスク因子を見極めながら転倒予防に努めることが大切と言えます。